霧の狐道198

ghanayama
 受話器を置く音がした。

“ ガチャ!”

待ち受け音楽が始まった。

“ 寂しさにぃ~、負けたァ~♪
 いいえっ、世間に負けたァ~♪”

「 ああ、また、この音楽かァ・・・。」

“ この町を、追われたァ~♪
 いっそ、死のうと思ったァ~♪”

「 何か、気分が暗くなって来たぞ・・・。」

“ ちか~らの限り生きたのにぃ~♪
 未練などないわァ~~~♪“

「 うう、手術はイヤだァ・・・・。」

“ ガチャ!”

「 おう、貴志、手術するのか?」

父親が出て来た。

「 しない、しない!
 電話の待ち受け音楽、いい加減に変えて欲しいんだけど・・・。」
「 いいじゃないか、これで。」
「 気分が暗くなるよ。」
「 俺は、これを聞くと元気が出るんだ。
 “昭和枯れススキ”だぞ。
 我が家にピッタリだ。」
「 ピッタリと思ったら、貧乏から脱出しろよォ~。」
「 まあ、これはこれで、しみじみしていいんだよ。
 それで、手術はいつするんだ?」
「 しないんだって!」
「 どうして?」
「 ヒビが入っているだけで、固定しておけば治るんだよ。」
「 何だ、しないのか。
 それで、タヌキの友達が出来たらしいが・・・?」
「 それは、主治医の名前で、狸小路って言うんだよ。」
「 ふ~ん。」



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