霧の狐道189

ghanayama
 俺は部屋から出て行く田中爺の後ろ姿を見ながら思った。

“ あのベッド・・、生きては退院できないのか・・・・。”

俺は曰く付きのベッドを見た。

“ ホント、あのベッドじゃなくて良かった。”

 曰く付きのベッドを見ると、自然と隣のベッドの山本爺が眼に入る。
山本爺は相変わらず布団から眼だけを出してこちらを見ている。
俺は山本爺とモロに眼が合った。

“ な、何か、ヤダなァ・・・。”

俺は気まずい気分で山本爺から眼を逸らせた。






      主治医


 俺は、今日、午前中主治医の診察を受ける予定となっていた。
朝食を取った後、休憩を挟んで診察を受けに行く。
 朝食後、ベッドで30分ほど寛いでいると、看護婦の井上さんが車椅子を押しながら遣って来た。

「 じゃ、診察に行こうか。
 車椅子に乗ってね。」
「 ハイ。」

 井上さんは車椅子をベッドの横に持って来て、俺は井上さんに介助されながら車椅子に座る。
足と肩の痛みが残っているし、腫れているのか体を動かし難い。
それに車椅子に慣れないから勝手が分からず、イデデ、イデデと喚きながら何とか座った。
 井上さんが笑いながら言った。

「 大袈裟、大袈裟!」
「 でも、ホントに痛い。」
「 若いんだから、我慢、我慢。」
「 若くっても、痛いものは痛い!」
「 じゃ、出発、出発!」

井上さんに車椅子を後ろから押され、俺は病室を出発した。



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